ときおり、ふと発作のようにたまらなく会いたくなる。
それは病のようでそれと違うし、かといって正常な状態かと聞かれても否。
薄ら寒い朝の日差しの中であさげを食べているときだとか、攘夷活動をしているときだとか、なんとなく散歩をしているときだとか、眠れない夜だとか、突然会いたくなる。
病のように突然会って抱きしめたくなって、抱きしめてほしくなって、そんな自分に半ばあきれて、そんなことを何度だって繰り返す。
ぼんやりとして意味が無く、しかし強い願望である。
「銀時・・・・・」
ひとり部屋の中、本を読みながらそんな発作にとらわれて、小声で彼の名前を呼んでみた。途端に冷えた空気に溶け込んでいく言葉が空しい。本の頁をはらりとめくる。内容など頭に入らない。
顔が見たい。
声が聞きたい、話がしたい。
触れたい。
「呼んだ?」
「・・・・・・ッ」
突然背後に温もりを感じた。まるで見えない線で思考が繋がっていたかのように絶妙なタイミングで後ろから優しく抱きしめられた。
まるで嘘のように。優しく。腰に手をくるりと回されて、俺の背中と彼の胸の辺りとがぴたりと張り付いて、肩にの辺りに顎を乗せられて。
「呼んだろ」
「居たのか、貴様」
「その言い草はねーだろ。来てやったのに」
「はなせ」
「いいのか?離れて」
「いやだ」
「どっちだ・・・・」
「顔を、見せろ」
くるりと身体を反転させられ、覗きこんだ顔は普段となんら変わりの無い、坂田銀時の顔であった。それを確認するとまたすぐに彼に飛びついた。今度は自らの腕も彼の背に回し、ぴたりと隙間の無いように抱きしめた。応酬のように抱き返され、その力の過不足の無さに内心感服しながら目を閉じた。
「どうしたんだよ」
「別になにもないが」
「そう」
「貴様、今日は何をしに此処へ来たのだ」
「会いたくなった」
「そうか」
「・・・・・すげぇ会いたくなったんだよ、何故か」
沈黙は続くが、心地よい。髪をすぅっと撫でられた。
まるで俺の一部のように(そして俺は彼の一部であるかのように)どこかで何かが繋がっているようだ。
そういえばしおりも挟まずに本を机に置いてしまった。が、かまうものか。
いっそこのまま時が止まってしまえ。
俺がこの温もりをすっかり食らってしまうまで。